臨終が近づくと、表情や身体の状態、行動に特有の変化が見られるといわれています。大切な人との最期の時間を穏やかに後悔のない形で見届けたい場合、どのような変化に気づき、どう寄り添えばよいのでしょうか。
この記事では、臨終が近いときに現れるサイン、家族としてできること、そして臨終を迎えたあとの流れまで詳しく紹介します。
臨終が近いことを知らせる表情とは
人の表情は、心身の状態を物語るものです。とくに、臨終の瞬間が近づくと、これまでとは異なる特有の表情が現れることがあります。こうした変化に気づくことで、心の準備ができ、旅立つ人との最期の時間をより大切に過ごせるでしょう。
目の色が濁る
臨終が近づくと、目の色が全体的に濁って見えるようになります。これは、体内の水分代謝の低下や老廃物が排出障害、血流の悪化などが原因と考えられています。普段は澄んでいた瞳が、薄い膜がかかったように見えたり、白く曇って見えたりするのが特徴です。
目力が落ちる
目の濁りとともに、目力が明らかに弱くなるのも臨終が近い方に見られる変化です。意識レベルの低下や、全身の倦怠感により、目を開けるのがつらそうに見えたり、焦点が定まらないようなぼんやりとした視線になったりすることがあります。
以前のような力強い視線は失われ、どこか遠くを見つめているような、あるいは何も見えていないような表情へと変化します。
目を見開く
意識が混濁すると、脳の機能が低下し、周囲の状況を把握する能力が弱まります。このとき、身体は無意識に環境に反応しようとするため、目を見開くことがあります。
目を見開く行動は、視覚的な認識を試みる一環として現れる場合があり、亡くなる前の身体の自然な反応として理解されています。これらの反応は、苦痛をともなうものではなく、生命活動の最期に向けての生理的な変化の一部です。
このような身体の変化を観察することで、家族や介護者は臨終のときを迎える準備ができます。
目のクマが濃くなる
臨終が近づくと、目のクマが濃くなる場合があります。これは、全身の血行不良によるもので、体力の低下や食事・水分の摂取量が減ることが原因です。目の周りの皮膚は薄いため、血流の悪化がクマとして表れやすくなります。
目に涙を浮かべる
臨終が近い人は、目に涙を浮かべる場面も見られます。これは、感情によるものだけでなく、生理的な要因が大きく関わっています。
体力が低下し、まぶたを閉じる筋力が弱まることで、目が乾燥しやすくなるため、身体が涙で潤そうとする自然な反応です。加えて、まばたきの回数が減ることも涙が溜まりやすくなる一因です。
肌の色が青白くなる
肌の色が青白くなるのは、血行不良の典型的なサインです。心臓の機能が低下し、全身への血液供給が滞ることで、皮膚の下の毛細血管を流れる血液量が減少し、肌の色が白っぽく、ときには青みがかった色に見えるようになります。
唇の色も紫がかって見えることがあり、これは生命活動の低下を示唆する重要な兆候のひとつです。
笑みを浮かべる
臨終の瞬間に穏やかな笑みを浮かべる方もいます。苦痛からの解放や、安堵感、あるいは見えない「お迎え」に反応しているなど、さまざまな理由が考えられます。
科学的な解明はされていませんが、看取る家族にとっては、故人が穏やかな気持ちで旅立ったと示す表情として、深い安堵や慰めとなるでしょう。
臨終の兆候がわかる症状
臨終が近づくと、表情の変化だけでなく、身体にもさまざまな物理的な症状が現れます。これらは、生命維持機能の低下を反映したもので、家族が「そのとき」を察知するための重要な手がかりになります。
体重の減少
病状の進行にともない、体重減少が顕著に見られます。食欲の低下や消化吸収能力の衰え、筋肉量の減少などが複合的に作用し、身体の組織が衰弱していくためです。
とくに、終末期では、栄養摂取が困難になり、急激にやせ細ります。衣服がゆるくなり、骨が浮き出てきたりと、外見からもその変化がはっきりとわかります。
呼吸の変化
呼吸の変化は、臨終が近いことを示す最もわかりやすい兆候のひとつです。なかでも特徴的なのが「下顎呼吸」です。これは、呼吸が浅くなり、口を大きく開けて下顎を動かしながら必死に空気を取り込もうとする状態で、魚が口を動かしているようにも見えます。
この状態では肺の機能が著しく低下しており、通常の呼吸では十分な酸素を取り込めなくなっています。非常に苦しそうに見えるため、家族は動揺しますが、本人は意識がないことが多いため、苦痛を感じていない場合がほとんどです。
また「死前喘鳴(しぜんぜんめい)」と呼ばれる症状もよく見られます。呼吸の際にゴロゴロ、ゼーゼーといった痰が絡んだような音が聞こえる状態です。これは、嚥下機能の低下により、口腔内や気管支に分泌物が溜まり、それが呼吸によって振動することで発生します。
耳慣れない音に驚くかもしれませんが、多くの場合、身体の機能低下にともなう自然な現象であり、医療的な処置が必要になるとは限りません。
手足の変色
心臓のポンプ機能が低下すると、末端まで血液が十分に行き渡らなくなり、手足の血行が悪化します。
その結果、指先などが青紫色に変わったり、斑点状に見えたりします。酸素が不足している際に起こる「チアノーゼ」と呼ばれる現象です。同時に、手足が冷たくなることも多く、身体の中心部に血液が集中している兆候です。
排泄能力の低下
腎臓の働きが弱まると尿の量が減少したり、排泄機能そのものが衰えたりします。ときには尿が全く出なくなる場合もあります。腸の動きも鈍くなり、便秘がちになることがあります。
これらの変化は、体内の水分や老廃物の排出が難しくなり、全身の機能が衰えているサインです。
せん妄
終末期には、意識レベルの低下や、薬の影響、電解質異常などさまざまな要因により、せん妄状態が現れるときがあります。せん妄とは、意識が混濁し、幻覚や妄想、見当識障害(時間や場所、人が認識できない)などが起こる状態です。
興奮して暴言を吐いたり、意味不明なことを口にしたりすることもありますが、本人は記憶が残っていないことがほとんどです。家族にとっては辛い状況ですが、これは一時的な症状であり、病状の進行による自然な過程と理解して見守りましょう。
臨終の兆候がわかる行動
身体的な症状だけでなく、行動にも特徴的な変化が見られる場合があります。こうした行動は、本人の無意識な反応や内面的な心境の変化を反映している可能性があります。
落ち着きがなくなる
終末期には落ち着きがなくなり、そわそわとした様子を見せることがあります。ベッドの中で何度も体位を変えようとしたり、手足を落ち着きなく動かしたり、目的もなく起き上がろうとしたりするケースもあります。
これは、体内の不快感や痛み、あるいは精神的な不安が原因となって、本人の意識とは関係なく生じる反応だといえるでしょう。
手のひらを見つめる
一部の方には、自分の手のひらをじっと見つめる様子が見られる場合があります。この行動には医学的な明確な根拠はなく、どのように捉えるかは人それぞれです。
自身の存在や過去を振り返っている、あるいは意識が朦朧とするなかで何かを認識しようとしているといった見方があります。このような行動が見られたとき、無理に声をかけたり動かしたりせず、静かに寄り添って見守る姿勢が大切です。
寝ている時間が長くなる
病状が進行すると、ほとんどの時間を眠って過ごすようになります。日中も目を覚ますのは、食事や排泄のときに限られる場合が多く、全身のエネルギーや意識レベルが大きく低下している状態です。
眠っているように見えても、周囲の音や気配にわずかに反応している場合があります。そっと声をかけたり手を握ったりすると、穏やかな気持ちで過ごせるようになります。
お迎え現象が見られる
「お迎え現象」とは、亡くなる直前の人が既に亡くなった家族や友人、あるいは天使や仏様の姿を見る、あるいは会話を交わすような様子が見られる現象です。たとえば「お母さんが迎えに来た」「〇〇さんが待っている」などと口にすることがあります。
科学的には説明が難しい現象ですが、多くの終末期患者に共通して見られる現象として報告されています。本人は穏やかな表情で語ることが多く、不安や苦痛を感じているわけではありません。家族としては戸惑うかもしれませんが、無理に否定せず、本人の話に耳を傾けることが大切です。
中治り現象がみられる
「中治り(なかなおり)現象」とは、亡くなる直前に一時的に病状が回復したかのように見える現象です。この現象では突然意識がはっきりし、食欲が戻ったり、会話が明瞭になったりすることがあります。これにより、一時的に元気を取り戻したように感じることがあります。
この現象は、神経伝達物質の変化や、抑えられていた身体の力が一時的に解放されることが要因と考えられています。家族や周囲の方々にとっては、貴重な時間として、大切に感じられる瞬間となります。
感謝を口にする
臨終のときが近づくと、家族や周囲の人々への感謝を口にすることがあります。「ありがとう」「お世話になりました」など、短い言葉であっても思いが込められています。
意識がはっきりしているうちに、これまで伝えられなかった気持ちを伝えようとしているのかもしれません。その一言は、残される家族の心に深く刻まれる貴重な瞬間となるでしょう。
臨終直前に家族ができること
大切な人の臨終が近づくと、家族は不安や悲しみに包まれ、気持ちが混乱しやすくなります。そんなときこそ、故人が安らかに旅立てるよう、そして家族自身が悔いのない別れを迎えられるよう、具体的な行動を意識することが大切です。
そばで見守る
何よりも大切なことは、故人のそばで静かに寄り添い続けることです。手を握ったり、身体にそっと触れたりするだけでも、安心感を与えられます。「最期の瞬間までひとりにさせない」という気持ちが伝わるでしょう。
医師や看護師から、もう長くはないと告げられた場合はできる限りそばに付き添い、穏やかな時間をともに過ごせるよう心がけましょう。
話しかける・感謝を伝える
意識が朦朧としていても、耳は最後まで聞こえていると言われています。名前を呼んだり、思い出話を語ったり、感謝の気持ちを伝えたりすると心が通じ合う時間を持てます。
穏やかな声で語り掛け、故人の反応に注意を払いながら、静かに思いを届けましょう。返事がなくても、あなたの声はきっと故人に届いているはずです。
親族や友人へ連絡する
臨終が近づいたことを、親族や親しい友人に連絡するのも重要です。「最期に顔を見たい」「お別れを言いたい」と願う方がいるかもしれません。その際は、故人の状態を正直に伝え、無理のない範囲で来てもらえるようにしましょう。
訪問者が増えすぎると故人の安らぎを妨げることもあるため、人数や時間帯への配慮も忘れないようにします。
身の回りを清潔に保つ
故人の身の回りを清潔に保つことは、尊厳を守るだけでなく、看取る側の気持ちを整理する助けにもなります。汗を拭いたり、口元をきれいにしたり、髪を整えたりと、できる範囲で身だしなみを整えてあげましょう。
身体を拭いたり着替えを手伝ったりすることで、故人が少しでも楽になり、安らかに過ごせるときがあります。必要であれば、看護師に相談して方法を教えてもらうとよいでしょう。
家族の臨終を迎えたあとに行うべきこと
大切な人が旅立ったあと、深い悲しみのなかで、さまざまな手続きや手配を進めなければなりません。慣れないことばかりで戸惑う場面もありますが、落ち着いてひとつずつ対応します。
医師による死亡診断
故人が息を引き取ったあとは、医師による死亡診断が必要です。病院で亡くなった場合は、担当医が死亡確認をして、死亡診断書を作成します。自宅で亡くなった場合は、かかりつけ医に連絡するか、救急車を呼んで医師に診断を依頼します。
死亡診断書は、葬儀の手配や各種行政手続きに必要な重要書類です。あらかじめ数枚コピーを取っておくと安心です。
葬儀の手配
死亡診断書を受け取ったら、葬儀の準備に移ります。事前に葬儀社を決めていた場合は、すぐに連絡を取り、ご遺体の搬送や安置、葬儀の日程や形式について打ち合わせします。
葬儀社が未定の場合は、複数の葬儀社に見積もりを依頼して比較検討も可能です。故人の意思や家族の希望を大切にしながら、落ち着いて準備を進めましょう。
メモリードでは、全国に210箇所と充実した施設展開を行い、ご葬儀や事前相談、アフターサポートまで幅広く対応しております。お気軽にご相談ください。
訃報の連絡
葬儀の日程や場所が決まったら、親族や友人、職場関係者などへ訃報を伝えます。電話、メール、SNSなど、関係性や状況に応じて連絡手段を使い分けましょう。
訃報には、故人の氏名、亡くなった日時、葬儀の日時・場所、喪主の氏名などを記載します。香典や供花を辞退する場合は、その旨も添えておくと丁寧です。連絡が遅れると、相手に失礼になる場合もあるため、できるだけ早めにしましょう。
まとめ
人の臨終はある程度予測できるとはいえ、実際にそのときを迎えると心が大きく揺れ動きます。兆候を理解し、落ち着いて対応すれば、故人も家族も穏やかに臨終の時間を過ごせます。
表情や身体の症状、そして行動の変化に目を向けながら、故人が発するサインを受け止める姿勢が大切です。そして、そばで見守り、感謝の言葉を伝え、身の回りを整えると、温かく旅立ちを見送れます。
旅立ちのあとも、悲しみのなかで多くの手続きに向き合わなければなりません。医師による死亡診断、葬儀の手配、訃報連絡など、一つひとつ丁寧に進める姿勢が、故人への最後の務めとなります。
メモリードでは、葬儀のお打ち合わせから準備、空間づくりに至るまで、すべてのサポートをご遺族様のお気持ちに寄り添った心遣いで行います。旅立つ人とご家族が穏やかにお別れできるよう、真心を込めてサポートいたします。
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