身内が亡くなったとき、悲しみや戸惑いの中で「何をしてよいのか」「避けたほうがよいのか」が分からず、不安になることは少なくありません。とくに、神社への参拝や結婚式への参列、年賀状の送付など、控えるべき行動は多岐にわたります。
また、忌中と喪中では行動の制限が異なるため、それぞれの期間において何をしてはいけないのかを正確に把握しておくことが大切です。
本記事では、忌中と喪中の違いを踏まえながら、期間ごとに控えるべき行動とその理由を紹介します。あわせて、身内が亡くなった直後にすべきことについて紹介します。
「忌中」と「喪中」の違い
身内を亡くした際によく耳にする「忌中」と「喪中」は似ているようで、実は意味も目的も異なります。まずはそれぞれの違いを理解しておくことが大切です。
忌中とは
忌中とは、故人が亡くなってから四十九日法要までの期間を指します。
仏教では故人の魂がこの世とあの世をさまよい、四十九日目に成仏すると考えられています。この期間は遺族が故人の冥福を祈りながら慎ましく過ごす大切な時間です。
神道では死を穢れとして捉えるため、忌中は神社への参拝を避け神様に穢れが及ばないように配慮します。
また、忌中の期間は宗派や地域によって異なる場合があります。仏式では四十九日間が一般的ですが、神道では五十日祭までのおよそ50日間とされることもあります。 忌中は喪中より制限が厳しく、お祝い事への参加や神社参拝だけでなく旅行や引越しなど多くの行動を控えるべきとされています。
喪中とは
喪中とは、故人が亡くなってから一周忌までのおよそ1年間を指し、故人を偲びながら喪失の悲しみと向き合って過ごす期間です。
喪中とされる対象は一般的に二親等までの親族で、配偶者や父母、子ども、兄弟姉妹、祖父母、孫などが該当します。ただし近年では、同居の有無や親交の深さといった関係性も考慮され、血縁よりも生前での関わり方を重視して判断されることもあります。
喪中期間は忌中に比べて制限が緩やかですが、結婚式や入籍、家の新築、年賀状の送付など、新たな門出を象徴する行動は控えるのが望ましいとされています。一方、忌中とは異なり神社への参拝は差し支えないとされる場合もあります。
喪中の期間や範囲は故人との続柄によって異なり、配偶者や父母、子どもなど一親等はおよそ1年間、祖父母や兄弟姉妹など二親等は3か月から半年程度が一般的です。
浄土真宗など宗派による違い
忌中や喪中の考え方は、宗派や宗教によって大きく異なります。とくに注意したいのは、浄土真宗やキリスト教のように、忌中や喪中という概念そのものを持たない宗派の場合です。
浄土真宗では、故人は亡くなった瞬間に阿弥陀如来の力によって極楽浄土へ往生すると考えられています。そのため、忌中や喪中という期間も存在しません。四十九日を待たずに神社へ参拝できるという解釈も広く受け入れられています。
キリスト教では、死は神のもとへ召されることとされています。このため、忌中や喪中に相当する習慣はなく、葬儀後の行動制限もとくにありません。
一方、神道では死を穢れとして捉えるため、五十日祭までの忌中期間は厳しく行動が制限されます。ここでいう穢れとは「気枯れ」とも書き、死や血に関わることで気力が失われている状態を指します。
仏教でも宗派により考え方が異なり、一般的には四十九日までを忌中としますが、地域や家庭の事情に応じて解釈に幅が出てきています。
このように宗教観によって対応が大きく変わるため、故人の信仰や家族の考えを踏まえた判断が大切です。
忌中期間（四十九日まで）にしてはいけないこと
忌中は故人を悼む大切な期間であり、とくに行動の制限が厳しいとされています。日常生活のなかには控えるべきとされる行動が多く、知らずに行ってしまうと周囲から非常識だと思われかねません。
ここでは忌中期間に避けるべき主な行動について、その理由とともに分かりやすく解説します。
神社への参拝
忌中における最も代表的なタブーが神社への参拝です。神道では死を穢れとして捉えるため、忌中の間は神聖な場所である神社への立ち入りを避ける必要があります。これは故人の死による穢れを神様のいる場所に持ち込まないようにするための配慮です。
鳥居の外から参拝すればよいという説もありますが、これは誤りとされており、境内に入ること自体を控えるべきだとされています。
一方で仏教では、お寺への参拝は忌中であっても問題ありません。むしろ故人の冥福を祈る行為として推奨されています。
神棚のお参り
自宅に神棚がある場合、忌中の間は神棚へのお参りを控える必要があります。これも神道における穢れの考え方に基づいたものです。
忌中には「神棚封じ」と呼ばれる儀式があります。これは故人の死を神様に報告したうえで神棚の扉を閉じ、白い半紙で封じるものです。神棚封じの期間は、仏式では四十九日法要まで、神式では五十日祭までが一般的とされています。
なお、仏壇については封じる必要はありません。仏教では、忌中や喪中であっても通常通りお参りができます。
結婚式やお祝い事への参加・開催
忌中期間は、結婚式をはじめとするお祝い事への参加や開催を避けるべきとされています。故人を悼む大切な時期に華やかな場へ出向くことは不謹慎と考えられるためです。
すでに出席の意向を伝えている結婚式がある場合は、できるだけ早めに欠席の連絡をしましょう。その際は「家の事情により」「やむを得ない事情により」といった曖昧な表現を用いるのがマナーです。
忌中であることを直接伝えると、相手に余計な配慮をさせてしまう可能性があるため、避けるのが無難です。欠席となる場合でも、忌明け後に改めてご祝儀を手渡すか、電報や花を送るなどの気遣いがあるとより丁寧な対応になります。
飲み会や華やかな席への出席
忌中は故人の死を悼み、静かに過ごすべき期間とされているため、飲み会やパーティーなど賑やかな席への参加は控えることが望ましいとされています。
仕事上の飲み会は断りづらいと感じる方も少なくありません。しかし、忌中であることを伝えれば多くの場合は理解してもらえます。参加したとしても相手に気を使わせてしまう可能性が高いため、できる限り欠席する方が無難です。
どうしても避けられない場面では、主催者にあらかじめ事情を説明し、参加する場合も節度を保ちながら、早めに退席するなどの配慮が必要です。
お中元・お歳暮の贈答
忌中の期間は、お中元やお歳暮などの贈り物を控えることが基本とされています。これは穢れを他者に広めないようにするという神道の考え方に基づくものです。
どうしても贈る必要がある場合は、紅白の水引を避け、白無地ののし紙を使用するか、時期を少しずらして「暑中見舞い」や「寒中見舞い」として届けることをおすすめします。
また、贈り先が忌中であると分かっている場合も配慮が必要です。水引のない白いのし紙を選ぶ、あるいは時期を調整するなど、相手に負担をかけないための工夫を心がけましょう。
新年の挨拶やお正月のお祝い
忌中にお正月を迎える場合は、通常のお正月のお祝いを控える必要があります。門松や鏡餅、しめ飾りなどの正月飾りは飾らず、おせち料理も鯛や海老、紅白かまぼこなどお祝いの意味を持つ食材は避けます。
新年の挨拶にも注意が必要です。「あけましておめでとうございます」という表現は使わず「本年もよろしくお願いいたします」といった言い回しにするのが適切です。
年賀状については、忌中や喪中に関わらず送らないのがマナーです。代わりに喪中はがきを11月中旬から12月上旬までに送り、新年の挨拶を控えることを事前に知らせておきましょう。
旅行やレジャー
忌中の期間は、旅行やレジャーなどの娯楽を楽しむことも控えるべきとされています。故人の死を悼む大切な時期に娯楽を楽しむのは不謹慎とされるためです。また、死の穢れを遠方へ持ち運ばないという意味合いもあります。
ただし、仕事での出張や介護のための帰省など、やむを得ない事情による移動は問題ないとされています。大切なのは、その目的が娯楽ではないという点です。
判断に迷う場面では、家族や親戚、地域の年長者に相談し、周囲の考え方を確認しておくと安心です。
喪中期間（一周忌まで）にしてはいけないこと
忌中が明けた後も、一周忌までは喪中期間としていくつかの行動を控えることが求められます。忌中ほど厳格ではありませんが、お祝い事や新たな門出にあたる行動は避けるべきとされています。
喪中期間でとくに注意したいのが、年末年始の過ごし方と、人生の節目となるイベントへの対応です。
結婚式や入籍
喪中期間は、結婚式や入籍といった人生の大きな節目を避けることが一般的なマナーとされています。結婚は新しい人生の門出を祝う慶事であり、故人を悼む喪中に行うことは適切でないと考えられているためです。
しかし近年では、故人が生前に結婚を楽しみにしていた場合や、やむを得ない事情がある場合には、家族や親族と相談したうえで執り行うケースも見られるようになってきました。
入籍だけを先に済ませ、結婚式は喪が明けてから行うという選択肢もあります。大切なのは、両家で丁寧に話し合い、それぞれが納得できる形を見つけることです。
家の新築・リフォーム・地鎮祭
喪中期間は、家の新築やリフォームも控えた方がよいとされています。新築は新しい生活の始まりを意味する慶事であり、故人を偲ぶ喪中の期間にはふさわしくないと考えられているためです。
とくに地鎮祭は神式の行事であり、お祝い事を避ける喪中の期間に執り行うのは望ましくないとされています。また、喪中は精神的に不安定になりやすく、大きな決断が冷静にできない可能性がある点にも注意が必要です。
やむを得ない事情がある場合は、事前にお祓いを受ける、地鎮祭を仏式で行う、あるいは省略するなどの対策を検討すると安心です。
神社への初詣
喪中期間の神社への初詣については、見解が分かれています。伝統的には控えるべきとされてきましたが、忌中が明けていれば問題ないとする現代的な解釈も見られます。
喪中に神社へ初詣に行く場合は、晴れ着や派手な服装は避け、落ち着いた服装で参拝することが大切です。また、お祝いの雰囲気が強い三が日を避け、松の内が過ぎてから参拝するという方法もあります。
最終的には、地域の慣習や家族・親族の考え方を尊重することが重要です。なお、お寺への初詣であれば、喪中であっても問題なく参拝できます。
身内が亡くなったときの会社での対応
身内が亡くなった際、会社への連絡と忌引き休暇の取得は避けて通れない手続きです。
まず、身内の訃報を知ったら、できるだけ早く直属の上司へ電話で連絡しましょう。故人の氏名や続柄、亡くなった日時、葬儀のおおまかな予定、忌引き休暇を取得する期間などを簡潔に伝えます。
忌引き休暇は会社独自の福利厚生であり、取得できる日数は就業規則によって異なります。そのため、必ず自社の規定を確認することが大切です。
一般的な目安として、配偶者や父母、子どものような一親等は7日から10日ほど、祖父母や兄弟姉妹など二親等は3日から5日ほどとされています。 忌引き明けに出社した際は、上司や関係者に改めて挨拶をし、休暇中のフォローに対する感謝の気持ちをきちんと伝えましょう。
身内が亡くなったら最初にすべきこと
身内が亡くなったときは、深い悲しみの中でも多くの手続きを迅速に進めなければなりません。何から手をつければよいのか分からず、混乱してしまう方も少なくありません。
ここでは、最優先で行うべきことを時系列に沿って整理して解説します。とくに重要なのが、死亡診断書の取得と葬儀社への連絡です。
病院で亡くなった場合
病院で身内が亡くなった場合は、医師が死亡診断書を発行してくれます。法律により、死亡診断書は医師のみが発行できると定められています。
死亡診断書には、故人の氏名や死亡時刻、死亡場所、死因などが記載されています。この書類は、死亡届の提出や火葬許可証の取得、生命保険の請求など、さまざまな手続きに必要となる重要なものです。
死亡診断書の発行には費用がかかり、一般的には5,000円前後が相場です。提出後は返却されないため、手続きに備えて複数枚コピーを取っておくと安心です。
死亡診断書を受け取った後は、速やかに葬儀社へ連絡し、ご遺体の搬送を依頼しましょう。
自宅で亡くなった場合
身内が自宅で亡くなった場合は、主治医がいれば連絡し、死亡診断書を作成してもらいます。
ただし、事故死や不審死が疑われる場合、または主治医がいない場合は警察への連絡が必要です。警察による検視が行われ、事件性がないと確認されると、死体検案書が発行されます。
検視にはある程度の時間がかかることがあり、死因が明らかでない場合には司法解剖が行われることもあります。
自宅で亡くなった場合も、死亡診断書または死体検案書を受け取ったら、速やかに葬儀社へ連絡し、ご遺体の搬送と安置を依頼します。
葬儀社への連絡
死亡診断書を受け取ったら、次に行うべきことは葬儀社への連絡です。葬儀社はご遺体の搬送や安置、葬儀の手配だけでなく、死亡届や火葬許可証の提出代行まで幅広くサポートしてくれます。
葬儀社へ連絡する際は、故人の氏名、亡くなった場所、ご遺体の搬送先、連絡者の氏名と連絡先を伝えましょう。死亡届や火葬許可証の提出については、多くの葬儀社が代行してくれるため、安心して任せられます。
訃報の連絡をする
葬儀社への連絡が済んだら、親族や故人の関係者へ訃報を伝えます。
まず、故人の配偶者や子ども、両親、兄弟姉妹など近い親族には最優先で連絡しましょう。この段階では、葬儀の日程が決まっていなくても問題ありません。連絡方法は電話が最も丁寧で、緊急性も伝わりやすく安心です。
次に、故人と親しかった友人や知人、勤務先の関係者へ連絡します。葬儀の日程や場所が決まったら、再度連絡を入れ、葬儀の形式や日時、場所、喪主の氏名を明確に伝えましょう。
家族葬などで参列を限定する場合は、その旨を丁寧に知らせます。香典や供花を辞退する場合もあわせて伝えておくと、相手に余計な負担をかけずに済みます。
必要な手続きをする
訃報の連絡と並行して、いくつかの緊急性の高い手続きを進める必要があります。
まず、死亡届の提出があります。死亡届は死亡の事実を知った日から7日以内に、故人の死亡地や本籍地、または届出人の所在地の市区町村役場へ提出しなければなりません。多くの場合は葬儀社が代行してくれるため、安心して任せられます。
年金を受給していた場合は、年金受給停止の手続きも必要です。国民年金は死亡後14日以内、厚生年金は死亡後10日以内に届け出を行います。手続きが遅れると過払い分の返還を求められることがあるため、早めの対応が大切です。
忌中・喪中のよくある質問
忌中や喪中の期間中は、さまざまな疑問や不安が生じることがあります。ここでは、多くの方が抱えやすい代表的な質問にお答えします。
Q1.同居していない親戚でも喪に服すべき？
喪に服すかどうかは、故人との続柄だけでなく、親交の深さによって判断します。一般的には故人から二親等までの親族が喪に服すとされていますが、これは絶対的なルールではありません。
同居していない祖父母や叔父叔母であっても、幼少期からお世話になっていた場合は喪に服すことがあります。逆に、血縁関係があっても長年疎遠だった場合は、喪に服さないという選択になることもあります。
最終的には、家族や親族と相談し、それぞれの状況に応じて判断することが大切です。
Q2.どうしても職場の食事会に参加しなければならない場合は？
忌中や喪中であっても、仕事上どうしても参加が必要な場面があります。重要な会議や取引先との会食など、自分が欠席すると業務に大きな支障が生じる場合は、やむを得ません。
そのような場合は、事前に上司や関係者へ事情を説明し、理解を得ておくことが大切です。参加する際は節度を保ち、華やかな振る舞いは控えましょう。会食の場合はお酒を控えめにし、できるだけ早めに退席することをおすすめします。
Q3.お寺への参拝は忌中でも問題ない？
お寺への参拝は忌中であっても問題ありません。神道では死を穢れとして捉えますが、仏教にはそのような概念がないためです。
むしろ、忌中や喪中は故人の冥福を祈る大切な期間であり、お寺への参拝は推奨されています。法要やお墓参りはもちろん、日常的なお寺への参拝も自由に行うことができます。
Q4.喪中期間に結婚式に招待された場合はどうすればいい？
基本的には欠席するのがマナーです。欠席を伝える際は「家の事情により」「やむを得ない事情により」といった曖昧な表現を使い、具体的に喪中であることは伏せるのが一般的です。
喪中であることを直接伝えてしまうと、新郎新婦に不吉な印象を与えてしまう可能性があるためです。欠席する場合でも、ご祝儀を送る、電報や花を贈るなどの配慮をするとよいでしょう。
Q5.喪中はがきはいつまでに出すべき？
喪中はがきは、相手が年賀状の準備を始める前に届くよう、11月中旬から12月上旬までに送るのが一般的です。遅くとも12月初旬までには相手に届くよう手配しましょう。
年賀状の受付開始は例年12月15日ごろからですので、それまでに届けることを目安にします。もし喪中はがきを出すのが遅れてしまい、相手から年賀状が届いた場合は、松の内が過ぎてから寒中見舞いを出し、お詫びと近況を伝えると丁寧です。
まとめ
身内が亡くなったとき、忌中や喪中に何をしてはいけないのかを正しく理解しておくことは、故人への敬意を示し、周囲との良好な関係を保つために大切です。
忌中はとくに制限が厳しく、神社参拝やお祝い事への参加は控えるべきとされています。喪中期間も、結婚式や初詣、年賀状の送付など、慶事に関わる行動は避けるのが望ましいでしょう。
ただし、最も大切なのは故人を偲ぶ気持ちです。形式やマナーにとらわれすぎて不安になるよりも、家族の状況を踏まえながら、故人への感謝と哀悼の思いを大切にしつつ柔軟に判断することが求められています。
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