
人生の最期をどのように見送るかは、ご遺族にとって大きな決断です。近年では、経済的・精神的な負担を抑えたいという理由から、通夜や告別式を行わない「直葬」を選ぶ方が増えています。
ただし、直葬は「費用が安いから」という理由だけで語れるものではありません。故人への想いを込める大切な時間であり、きちんと理解し準備することで、心に残るお別れができます。
本記事では、直葬の基本的な流れやほかの葬儀との違い、メリットとデメリット、さらに後悔のない見送りを行うための注意点をわかりやすくご紹介します。
直葬とは?
直葬とは、通夜や告別式といった儀式を行わず、火葬のみで故人を見送る葬儀形式のことです。「火葬式」や「荼毘(だび)」とも呼ばれ、もっともシンプルな葬送スタイルとされています。
読み方は一般的に「ちょくそう」ですが、地域によっては「じきそう」と呼ばれることもあります。
誤解されやすい点として「亡くなった場所から直接火葬場へ向かうのでは?」と思われる方も少なくありません。しかし法律で死後24時間以内の火葬は禁止されており、必ず一定期間の安置が必要です。つまり、一度安置した後に火葬場へ向かうのが正しい流れになります。
こうした直葬は、近年の社会情勢の変化にともない選ばれるケースが増えています。とくに都市部では、すでに葬儀全体の約4分の1を占めるほど一般的になりつつあります。
直葬を行う際の流れ
直葬はシンプルな葬儀形式ですが、実際にはいくつかの段階を踏んで進められます。各場面でご遺族が選ぶべきこと、準備すべきことがあり、その選択によって葬儀の印象や負担の大きさも変わってきます。
ここでは、直葬を行う際の主な流れを順を追って解説します。知っておくことで、実際の手続きや準備がぐっとイメージしやすくなるでしょう。
1.臨終
病院や自宅で臨終を迎えた後、まずは葬儀社へ連絡します。病院では通常1~3時間以内にご遺体の搬送が求められるため、事前に信頼できる葬儀社を決めておくことが重要です。
医師による死亡確認後、死亡診断書が発行されます。事故死や急死の場合は警察による検視が行われ、死体検案書が発行されるまで時間がかかることがあります。検視を受ける場合は、ご遺体に触れたり移動させたりせず、死亡時のままにしておく必要があります。
2.お迎え・安置
ご遺体を病院から搬送し、安置場所へお運びします。安置場所の選択肢として、ご自宅での安置と葬儀社の安置施設での安置があります。
ご自宅での安置が困難な場合は、葬儀社の安置施設を利用することになります。最近では、ホテル並みの充実した設備を持つ安置施設も増えており、ご家族が落ち着いて故人と過ごせる環境が整っています。
安置期間中は、ドライアイス処置により故人の状態を保ちます。この間に、葬儀社の担当者と直葬の詳細について打ち合わせを行います。
3.納棺
火葬の前に、故人を棺に納める納棺の儀を行います。故人に仏衣や故人が愛用していた衣服を着せ、思い出の品や好きだった花などを棺に納めることができます。
ただし、金属類やプラスチック製品などの不燃物は棺に入れることができません。担当者が事前に説明しますので、疑問があれば遠慮なくお尋ねください。
納棺の際は、ご家族が立ち会うことで、故人との静かなお別れの時間を持つことができます。
4.出棺
安置場所から火葬場へ向けて出棺します。一般的な葬儀のような霊柩車ではなく、寝台車を使用することが多くなっています。また、遺族が寝台車と一緒に向かわない場合、事前に担当者から火葬場の場所と時間を聞いておくとよいでしょう。
出棺の際は、簡素でありながらも心のこもったお別れの時間を大切にします。お線香をあげたり、お別れの花を手向けたりして、故人への最後のご挨拶をします。
5.火葬
火葬場に到着後、火葬炉の前で最後のお別れを行います。希望に応じて、僧侶による読経を依頼することも可能です。
火葬には約1~2時間を要します。その間、ご遺族は控室で待機していただきます。火葬場によっては軽食の提供もありますので、必要に応じてご利用ください。
6.骨上げ
火葬後、ご遺骨を骨壺に納める骨上げ(収骨)を行います。二人一組で専用の箸を使い、足の骨から順番に拾い上げ、最後に喉仏を納めるのが一般的な作法です。骨上げする際は喪主から始まり、故人と血縁の深い順番で行います。
地域によって骨上げの方法が異なる場合がありますので、火葬場のスタッフの指示に従って進めます。骨上げが完了すると、埋葬許可証とともにご遺骨をお渡しし、直葬は終了となります。
直葬をするメリット・デメリット
直葬を検討される際には、ここで紹介するメリット・デメリットの両方を把握したうえで検討しましょう。
メリット
・費用を大きく抑えられる 直葬は通夜や告別式を行わないため、会場費や祭壇費、飲食費、返礼品などが不要です。一般的な葬儀に比べ、費用を大幅に節約できます。
・遺族の負担を軽減できる 参列者対応が最小限で済み、高齢のご遺族や体調に不安のある方でも安心です。挨拶・受付・香典返しの負担も軽減されるため、精神的にも体力的にも負担が軽くなります。
・短期間で執り行える 参列者の都合を調整する必要がないため、比較的早く火葬まで進められます。火葬場の混雑状況による影響はあるものの、日程の自由度が高い点もメリットです。
デメリット
・お別れの時間が短い 直葬では火葬炉前での限られた時間しかなく「もっとゆっくり見送りたかった」と後悔する方もいます。
・菩提寺との関係に注意が必要 宗教儀式を省くため、菩提寺から納骨を断られる場合があります。事前に住職へ相談し、理解を得ることが大切です。
・親族の理解を得にくいことがある とくに年配の親族から「きちんと送っていない」と反対されることもあります。故人の意向や事情を説明しておくと安心です。
・参列できない人への対応が必要 直葬は身内だけで行うため、友人や知人には後日弔問を受ける可能性があります。その際のお迎えやお返しが負担になることもあります。
・気持ちの整理がつきにくい 儀式が簡略化される分、遺族が死を受け入れにくく、後から後悔や悲しみが強まる場合があります。
直葬と一日葬・一般葬・家族葬との違い
葬儀の形式を選ぶ際は、それぞれの特徴を理解することが大切です。以下の比較表と概要を参考にしてください。
直葬 | 一日葬 | 家族葬 | 一般葬 | |
---|---|---|---|---|
儀式の内容 | 火葬のみ | 告別式と火葬 | 通夜・告別式・ | 通夜・告別式・ |
火葬 | 火葬 | |||
所要日数 | 1日 | 1日 | 2日 | 2日 |
参列者の範囲 | 家族・親族数名 | 家族・親族・親しい友人 | 家族・親族・親しい友人 | 家族・親族・友人・会社関係者など |
参列者の人数 | 1~10名程度 | 10〜30名程度 | 10〜30名程度 | 30名以上 |
経済的負担 | 最も抑えられる | 抑えられる | 一般的 | 最も高い |
準備の負担 | 最も軽い | 軽い | 一般的 | 最も重い |
直葬はもっともシンプルで費用が安く、身内だけで静かに見送りたい方に適しています。一日葬は通夜を省き、告別式のみを行う形式です。直葬よりもお別れの時間を確保でき、儀式性も保てます。
家族葬は通夜・告別式を行う従来型の葬儀を小規模で実施するもので、アットホームな雰囲気で故人を偲べます。一般葬は最も多く行われる形式で、幅広い参列者が参加できますが、準備や費用の負担が大きくなります。
形式を選ぶ際は、故人の意向やご遺族の価値観、経済的事情を踏まえて判断するとよいでしょう。
直葬をする際の注意点
直葬を成功させ、後悔のないお見送りをするためには、以下の注意点を事前に確認しておくことが重要です。
親族と話し合ってから決める
直葬を選ぶ際は、まず主要な親族と十分に話し合うことが大切です。直葬は一般葬と比べ、行うようになった時期が新しく、年配の方や従来の葬儀に慣れている方から批判が出やすい場合があります。そのため、とくに故人の兄弟姉妹や子どもなど、近しい血縁の理解を得ましょう。
理由を説明する際は、経済的な事情だけでなく「故人が簡素な見送りを望んでいた」「家族だけで静かにお別れしたい」といった想いも伝えると理解されやすくなります。
反対意見が出ても冷静に対話を重ね、全員が完全に賛同しなくても最低限の合意を得ることが、後のトラブル防止につながります。
安置場所の確保をする
法律で死後24時間以内の火葬は禁止されているため、安置場所の確保は欠かせません。病院で死亡した場合でも、長時間の安置は難しい場合がほとんどです。自宅での安置が難しい場合は、葬儀社の安置施設を利用します。
近年は個室タイプや宿泊可能な施設など、ご家族が過ごしやすい環境が整った場所も増えています。選ぶ際は、面会時間や付き添いの可否、設備内容を事前に確認しておくと安心です。
菩提寺へ事前に相談する
菩提寺がある場合は、直葬を決める前に必ず住職へ相談しましょう。先祖代々の墓を管理するお寺では、葬儀を住職に依頼するのが一般的と考えられているため、無断で直葬を行うと納骨を断られることもあります。
相談時には直葬を選ぶ理由を丁寧に伝え、可能であれば火葬炉前での読経など協力をお願いするとよいでしょう。良好な関係を保つことで、後の法要や納骨も安心して行えます。
故人の交友関係を考慮する
直葬では参列者を限定するため、故人の友人や知人、会社関係者などは参列できません。故人が多くの方に慕われていた場合、後日「なぜ教えてくれなかったのか」「お別れしたかった」という声が上がる可能性があります。
故人の人間関係を整理し、とくに親しかった方や重要な関係者については、事前に直葬で行う旨をお伝えするか、後日改めてお別れの機会を設けることを検討してください。
弔問の機会を用意する
直葬後は、参列できなかった方々のために弔問の機会を設けることも大切です。四十九日法要や一周忌などの節目に、お別れ会や偲ぶ会を開催することで、多くの方に故人を偲んでいただけます。
また、自宅での弔問を受け入れる場合は、いつからいつまで受け付けるかを明確にし、事前にお知らせすることで、ご遺族の負担を軽減できます。
葬祭料の申請手続きを確認する
直葬でも公的な補助金を受けることができます。国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者は「葬祭費」として、社会保険の加入者は「埋葬料」として支給されます。
支給額や申請手続きは自治体や保険制度によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。申請期限は一般的に火葬の翌日から2年以内ですが、詳細については各自治体の窓口や健康保険組合にお問い合わせください。
申請には死亡診断書のコピーや葬儀費用の領収書などが必要となりますので、必要書類は大切に保管してください。
直葬に参列する際のマナー
直葬は簡素な形式とはいえ、故人を見送る大切な儀式です。参列する際は適切なマナーを守り、心のこもったお別れをしましょう。
服装
直葬では一般的な葬儀と同様に、喪服またはそれに準じた服装で参列するのが基本です。簡素な形式だからといって、カジュアルな服装は適切ではありません。
男性の場合
ブラックスーツまたは濃紺のスーツを着用します。シャツは白無地、ネクタイは黒を選びます。靴も黒の革靴で、光沢のないものを選んでください。また、仏教の場合、動物皮のものはふさわしくない場合があります。
アクセサリーは結婚指輪程度に留め、時計も派手でないものを選びます。髪型も整え、清潔感のある身だしなみを心がけましょう。
女性の場合
黒のスーツ、ワンピース、アンサンブルなどのブラックフォーマルを着用します。光沢のある素材や派手な装飾は避け、落ち着いた印象を心がけてください。
ストッキングは黒または肌色を選び、靴は黒のパンプスが適切です。ヒールは高すぎないものを選びましょう。カバンやコートなども派手な装飾は避け、落ち着いたものを使用するのが無難です。
アクセサリー・ネイル
アクセサリーは結婚指輪以外は基本的に着用しません。どうしても着用する場合は、パールなどの控えめなものに留めてください。
ネイルは透明または薄いピンク程度の控えめなものとし、派手なネイルアートは避けます。マニキュアを落とす時間がない場合は、黒やベージュの手袋を着用することもひとつの方法です。
香典
直葬では香典について事前に確認することが重要です。ご遺族が香典を辞退されている場合は、無理にお渡しする必要はありません。 香典辞退の連絡を受けていない場合は、一般的な葬儀と同様に香典を用意しても構いません。
ただし、直葬では受付が設けられていないことが多いため、喪主に直接お渡しするか、祭壇に供える形になります。 香典をお渡しする際は、簡潔なお悔やみの言葉を添えてください。「この度はご愁傷さまでした」「心よりお悔やみ申し上げます」といった言葉が適切です。
香典袋には新札は使用せず、一度折り目をつけたお札を使用するのがマナーです。不祝儀袋に入れるお札は、封筒を裏返して取り出したときに、顔が見えるように入れます。その際、顔が下向きになるようにするのがよいとされています。表書きは「御香典」「御霊前」などが一般的ですが、宗教に応じて選択してください。
直葬でよくある質問
直葬を検討される際によくお寄せいただく質問について、専門的な視点からお答えします。
Q1.安置はどこでできる?
安置には主に3つの選択肢があります。
・自宅:慣れ親しんだ環境で過ごせ、ご家族が自由に面会できます。ただし住宅事情や衛生面に配慮が必要です。
・葬儀社の安置施設:保冷設備が整い、故人の状態を保てます。最近は宿泊可能な設備など、ご家族が快適に過ごせる施設も増えています。
・お寺:菩提寺があれば、境内で安置できる場合もあります。宗教的な環境での安置は、ご遺族の心の支えになることがあります。
選ぶ際は、面会時間や費用、設備内容を比較して検討するとよいでしょう。
Q2.お棺やお花は用意できる?
直葬でも、お棺やお花を用意することは可能です。
・お棺:標準的な棺が含まれますが、希望に応じて上質な棺へ変更できます。(追加費用あり)
・お花:枕飾りやお別れ花を用意できます。故人の好きな花を選ぶと心のこもった見送りになりますが、火葬に支障が出る花もあるため事前確認が必要です。
・副葬品:写真や手紙などは納められますが、金属・プラスチック・ガラス製品は不可です。必ず担当者に確認しましょう。
Q3.直葬は自分でできる?
法律上は個人でも可能ですが、実際にはほぼ不可能で、葬儀社への依頼が前提と考えるべきです。
死亡届や火葬許可証の手続き、火葬場予約、搬送、棺や骨壺の準備、ドライアイス処置など多くの工程があり、知識や経験なしで行うのは困難です。不備があれば火葬自体ができなくなるおそれもあります。
葬儀社に依頼すれば専門スタッフが一連の流れをサポートしてくれるため、遺族は故人とのお別れに集中できます。
まとめ
直葬は通夜や告別式を行わず、火葬のみで見送る最もシンプルな葬儀です。費用や心身の負担を抑えられる一方、お別れの時間が短いことや、親族・菩提寺との調整が必要になる点は理解しておきましょう。
大切なのは、故人の意向とご家族の気持ちを最優先に話し合い「故人らしいお見送り」になるかを確認することです。
メモリードのお葬式では、一級葬祭ディレクターが多数在籍し、直葬のご相談から実際のサポートまで丁寧に対応しています。充実した安置施設や24時間365日体制も整えているため、突然の別れでも安心です。
後悔のないお見送りのために、ぜひお気軽にご相談ください。事前相談も承っており、将来への備えとしても安心です。